3:捌き(カット・スライス)包丁と肉 〜 仕事の理
3-2. 実際(方法・実践)
前回、包丁の研ぎ具合や立ち位置、握り具合や走らせる事など、基本的な留意点を述べましたが、重要ポイントとして肘と手首の使い方について少し話したいと思います。
肉を裁く時や肉と肉を分ける時など、どちらも手首をやわらかく、スパチュラでボウルの中のホイップクリームをすくう時のように、包丁の刃ではなく平の部分を使って、肉と骨、肉と肉を離したり、探ったりします。
その際、グイっと大きく動かす事もあれば、チョイッチョイッと細かく動かす事もあります。どちらにせよ、あまり手首をロックせず、肘を先に動かしてから流れで手首で包丁と肉の角度を合わせていくような感覚で包丁に力を流していきます。大きく動かす時には、あまり意識をしなくても肘が動いている事が多いのですが、細かく動かしている時には手先だけで動かしがちなので、意識する必要があります。
手首をやわらかく動かせるようなると、一頭一頭異なる、一頭の牛でも右と左で異なる筋肉や骨の形に対応できるようになります。より、肉を傷つける事無く、すなわち、味を落としてしまう事無く肉を捌けるようになります。
逆に手首をロックする事もあります。肉をこそぎ切ると言いますか、かぎ切ると言いますか、刃をすべらせるように使う時です。多くの筋肉は、筋膜で覆われています。その為、二つの筋肉が並んでいる時には、筋肉・膜(スジ)/脂/膜(スジ)・筋肉という層になっている事が多く、スジとスジを離していけば、筋肉が分かれます。しかし、筋肉によっては、筋肉・膜・筋肉というように筋肉と筋肉の間に1層のスジしかない部位もあります。そういった部位の場合、片方の部位にスジを残し、片方を離します。具体的に例を挙げると、大腿四頭筋の外側広筋(カメノコ)と大腿直筋(シンシン)です。京都中勢以では、ほとんどの場合はシンシンにスジを残してカメノコを外します。それは、スジに刃を直角に近い角度で当て横に滑らせるようにして他方の筋肉を離していく過程で話される側の筋肉に負荷がかかりやすく、カメノコとシンシンを比べた場合、シンシンの方がやわらかい部位であり、カメノコと同じ負荷がかかった場合にシンシンの方が傷みやすいからです。
肉を捌く時だけではなく、スジ引きしたり、肉をカットする時にも手首の動きは重要です。先のコラムで刃を大きく使う事や、すーっスと切る事が大切だと言いましが、手首をやわらかく使えないとどちらも上手くできません。刃が緩やかな円運動をするように肘の動きと手首の動きを連動させると良い具合に肉が切れます。
良い具合に肉が切れるという事は、肉がおいしく切れているという事です。