京都中勢以の仕事 捌き・カット・スライス 包丁と肉2 

 
3:捌き(カット・スライス)包丁と肉 〜 仕事の理
 
3-2. 実際(方法・実践)
 
京都中勢以で肉を切る際の包丁の理、肉の理、体の理、それらについて少し詳しく話をしたいと思います。
 
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京都中勢以では、片刃の包丁を使います。両刃、片刃、どちらも慣れれば使いこなせるようになるかと思いますが、スジを引いたり、肉を剥ぐような感覚で部位を分割する時、薄くカットする時などは、片刃の方が具合が良いように思います。
 
包丁の研ぎ具合は、ピンピンよりも少し鈍い程度、肉はスッと切れるけれど、スジには少し引っかかるくらいが良い具合です。包丁のサイズは、肉をカットやスライスする時には刃渡り27㎝の筋引きを主に使います。大割や骨抜きといった捌きには、骨透(ほねすき)の丸い方を使います。どちらも研ぎこんでいない刃の幅が広いものと、研いで細くなった物の2つを並行して都合によって使い分けています。
 
さて、筋引きを使って部位の小割をしたり、スジを引いたり、カットやスライスしたりする時の基本的な留意点を8点、お話しします。
 
留意点1)包丁を動かしやすいように立ち、包丁を動かしやすいように肉を置く。
 
体は、包丁を動かす時に体や腕の重心が前後左右に移動させやすい位置に立ちます。そして、肉と包丁が当たるポイントに最も力がかかりやすくなるように肉を置きます。その為、体やまな板の高さそして、肉の大きさによって立ち位置と置き場所を調整する必要があります。手の力で肉を切ると肉を潰し切るようなカットになり、肉の味に悪い影響を及ぼします。腕や手の力で肉を切るというよりも体の重心移動で腕を通して包丁に伝えるようなイメージで包丁を押したり引いたりすると余計な力を入れずに肉を切る事ができ、カットによる肉の味への悪影響が軽減されます。
 
留意点2)包丁を握りこまない。
 
包丁は、柄の中心あたりを中指と薬指の第2関節に乗せてふわりと包み込むような感じで持ちます。人差し指は、どこにどう力を少し入れたいかで峰の上だったり少し横に添えたりします。急いでいたり、少し大きな部位をカットしようとするとついつい力が入ってしまい、握りこんでしまいますが、その様な時こそ力を抜く事を意識する事で、スッと切れて、ササッと仕事が進みます。
 
留意点3)包丁を走らせる。
 
刃渡り27㎝の包丁の刃の根元から刃先まで、力の入れ方と重心のバランス、刃を当てる角度によって切れ方が変わります。角度というのは、刃を立てる寝かすという角度と包丁の刃と肉との接面を多くしたり少なくしたりという角度があります。何をどう切るかで27㎝の包丁のどの部分をどの角度で使い、力をどの程度入れるかを調整します。具体的にシチュエーションに合わせてどのような刃の使い方をするかを大きくカテゴライズする事が出来るかと思いますが、ここでは省略します。
 
問題は、慣れていないと小割をしたりスジを引く時には刃先を使いがちで、肉を焼肉用にカットする時などは刃の真ん中から少し先に近い部分を使いがちな事です。良く知られているように包丁は肉に垂直に押したのでは切れません。それでも、良く切れる包丁は、少し押しただけでも切れるのですが、それは、先にも言ったように肉を押し潰して切る事になります。肉に当たっている刃の部分を前後に動かす事で切れるという理を大いに利用し、刃の根元から刃先までを大きく使うようにイメージして動かすと、余計な力が入ることなく、肉を潰さずに切る事から、より良い切り口になります。この大きく刃を使う事を包丁を走らせると言っています。切り口が悪いと焼きムラが出やすくなる為、狙った焼き目にならないように思います。また、筋繊維がつぶれているせいか肉汁も出やすいように思います。これらは、あくまでも経験則なので、ちゃんと研究してみても良いかもしれません。
 
もちろん、調理や好みによってカット面が潰し切った様な状態にした方がよい場合もあります。その時には、潰し切れるよう意識をして刃をあまり動かさず、少し削るようにカットするといった技を使いますが、それは、あくまでも刃をしっかりと走らせて使えるようになる基礎の上に成り立つ技です。
 
留意点4)「すーっス」と切る。
 
包丁を動かすリズムと言いますか、音のイメージとして、「すーっス」という感じで切れていると良い具合です。「グサッ」とか「グイッ」とか「グググ」など、濁音のようなイメージではないのはもちろん、「すー」もカタカナの「スー」のような切れ味の良いスパっとした感じではなく、ひらがな的なやんわりとしたような、あたたかみのあるような、そんなイメージです。
 
肉を切る時の呼吸をあまり意識しすぎるとギクシャクしてしまうのですが、それでも呼吸と包丁を動かすリズムが合うまでは、自然に呼吸する中で吐くときに肉を切るというイメージで包丁を動かします。
 
留意点5)迷い包丁なく、手数は少なく。
 
前述の通り、刃のどの部分をどのように使うかは、肉のどの部分をどのようにカットするかで変わります。それぞれの肉の部位や状態に合った包丁使いがあるにも関わらず、その組み合わせを体が覚えていない場合、どのように包丁を入れるかを迷いがちです。迷ったまま包丁を入れ始めても、ある程度のレベルに達していれば、無理くり修正して最後まで包丁を進められます。それはそれで問題なのですが、修正できずに、最初から最後まで迷ってしまい、えらく時間がかかってしまったり、やたらとスジに肉が付いてしまったり、肉の表面がボコボコ、がたがたになってしまう。さらには、小割を迷った挙句、間違った筋肉の分割をしてしまう。そこまで悪くならなかったとしても、やはり、手数が多くなり、包丁を入れる回数が多い肉は、手数を少なくスパッとカットされた肉よりも状態が悪くなる傾向があります。状態が悪いというのは、傷んでしまって肉の味に悪影響を及ぼすという事です。迷う事なく包丁を走らせられるよう、それぞれの部位の形と特徴を体に覚えさせています。
 

留意点6)体を動かすのではなく、肉を動かす。
 
自身が最もスムーズに肉を切れる体と肉の置き方があり、その置き場所からズレると、うまく肉を切れない要因となります。体と肉の置き方を体が覚えていないと、肉を分割している時など、ついつい肉の形に合わせて体を動かししまいがちです。肉を分割割する時には、刃で切っていくというよりも肉が割られたいように少しだけ包丁を入れて肉と肉を離すような感覚で割っていきます。肉を動かさず体を動かしてしまうと無理な体勢を取り、余計な力が入る事で割ってはいけない方向に包丁を入れてしまうなど肉を傷める事となります。とは言え、肉をごろごろ転がしていたのでは、上で言ったように手数が多くなる事に繋がりますので、最初に置いた場所でやれる事は全てやる事、次に動かしたところではその動かした状態で出来る事を全てやる事、そうすれば、左右前後と多くても4回動かせば、一つの部位の分割や掃除は全て終わっている事が理想です。
 

留意点7)美味しくなるように念じる。
 
精神論っぽく聞こえてしまい理解が難しい点です。美味しくなるようにと念じながら包丁を入れる事。これは、肉を上手く扱う上で哲学ではなく、方法論として考えています。おそらく、脳波などを計測すれば、科学的に証明できるのではないかと思うのですが、無作為にただ作業として包丁を動かすよりも美味しくなるようにと念じながら包丁を入れた方が良い仕上がりになる傾向があります。
また、美味しいというのは、その肉が料理され、食べられた時にうまれてくる感情です。京都中勢以で肉を切っている時に、その美味しいを見る事は出来ないので、食べるまでの3手~5手前の肉を切るというアクションが食べた時の美味しいにどう繋がっていくのかを想像し、ベストの包丁使いを選ぶ事にもつながります。
京都中勢以は、飲食店の月(にくづき)、惣菜店の合(あい)で自分達が使う立場になる事で、美味しいに繋がる想像を膨らませる為の経験を積んでいます。
 

留意点8)楽しそうに肉を扱う。
 
念じる事と同じく精神論っぽく聞こえる点ですが、肉に包丁を入れる事を楽しめる事や楽しくなくても楽しそうにする事で脳を騙す事が、肉の美味しさにつながるようです。これは、楽しんでいた方がより視野が広がり作業効率が良くなる事と思考が開く事でより想像が広がりやすくなる事が理由かと思います。作業に追われていたり、トラブルが発生したりと、楽しくない事が多々起こりますが、そんな中でも気持ちを切り替え楽しむ事、もしくは切り替える為にも楽しそうに包丁を進ませる事が肉の美味しさに繋がります。
 

次回は、3:捌き(カット・スライス)包丁と肉 〜 仕事の理 3-3. 実際(方法・実践)手首の使い方